祝辞

他の誰かに依頼したほうがお母さまたちもご親族も安心されると思うよ。と断わったが、言わんとすることは分かるが承知の上だと断られる。

断わりすぎるのも失礼だろう。ソウ迷ううちに、花嫁の差し出した手をとり、握手をする。ソノ結果、乾杯の挨拶よりも前、花嫁・花婿が登場するなり話すという役を担うこととなった。

誰のために何を意図して声を発するのか。数週間、向き合う。

式開始。新郎新婦入場前に照明が落ちると、まさかまさかBGMに波音が流れる。ざざーん。式の終盤には、サプライズ餅つきのため、テンダーと共に高橋素晴 君が登場。その上、サクラちゃんの誕生日も、プロポーズの日も4月1日だという。

僕は、ホントウに僕の祖母がイタリア人なような気がしてきたし、僕の話が実話かそうでないかなど周囲の皆は気にしていないだということが今回の件を通してよくわかった。

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サクラちゃん、ユータ君、おめでとうございます。

サクラちゃんのお母さま、ユータ君のお母さま、ご親族、ご友人、ご列席の皆さま、おめでとうございます。

皆さまどうぞご着席ください。

ご紹介に与りました安藤アンディと申します。鹿児島市名山町のレトロフトチトセというビルの1階で、カベレフトという壁、小さな写真ギャラリーのようなものを、営んでおります。

2012年4月1日、エイプリルフール。皆が嘘をつく日。

「祝詞をお願い致します。」と書かれた1通の手紙が、自宅に届きました。

僕、なかなかソウイウコトを頼まれる柄では無いので、ホントウに嘘だろう?と思いましたし、周囲からも嘘でしょう?ホントウ!?などと言われました。

それから48日、フォーリィエイト。嘘みたいに日々は過ぎ、ホントウに綺麗な花嫁と、嘘のように凛々しい花婿の前に、ホントウに立ち、僭越ながら、祝辞を述べさせて頂きます。嘘のようです。

一生に一度であろうメデタイ宴です。

新郎・新婦は、皆様がコノ会場に来てくださることを、本当に本当に楽しみにしていました。

ありきたりの褒め言葉や、型通りの祝福は、心に残らず、消えてゆきますよね。

だから皆さん。

今日は、僕らそれぞれのやり方で、話し、笑い、食べ、歌い、踊り?、このかけがえの無い時間を、ふたりと僕らの胸に刻みましょう。

僕は一つだけ。短いお話を捧げます。

皆さん、目を閉じて頂けますか。

さらけだすときは、電気を消すか、目を閉じましょう。

フランス人である僕の祖父 菊太郎が17歳のとき、太平洋を横断し、アメリカの西海岸へ移り住んだときの話です。

陸軍で輸送車の運転手をしていた祖父は、ある日思い立ち、茨城県常陸多賀の海岸から、一艘のヨットで旅立ちます。

皆さん、自分に置き換え、想像してみてください。

17歳。夜、生まれ育った海岸を後にし、暗い海の上を進みます。

ざざーん、ざざーん。

ひとり海の上で見る朝焼け。どこまでも広がる海。夕焼け。

朝が来て、夜が来て、また朝が来て、夜が来て。孤独、空腹、罪悪感、疲労、さまざまを感じます。朝が来て、夜が来て、また朝が来て、夜がきて。

ざざーん。

ようやく太平洋を渡りきると、休む間もなく記者会見が開かれ、大人たちが尋ねます。

この太平洋横断達成の意味は?

価値は?

この結婚の意味は?

休みなく仕事することの意味は?

あなたの打ち込むソレにはどのような価値が?

好きな人と過ごすことに何の意味が?

懸命に子育てしてきたことの意味は?

この結婚の価値は?

この太平洋横断の意味は?

17歳の祖父は、こう答えたそうです。

今後の自分の生き方によって、今回の太平洋横断の価値が決まる。

僕は、素晴らしい答えだと感じました。

今日、こうして、サクラさんが本当に綺麗な花嫁姿を皆へ披露してくれていること。

ご親族、ご友人、新郎・新婦の大好きな方々が、ここに集まり、祝い、またそれぞれの生活へ戻ってゆくこと。

これから先、

サクラさんが支え、雄太君が、サクラ島大学を営んでゆくこと。

朝が来て、夜が来て。また朝が来て、夜が来て。

日々が過ぎてゆくこと。

その意味は。価値は。

ふたりのお母様が、ご家族が、懸命に生きて来られた結果、今日のこの素晴らしい時間があるように。

ふたりの大好きな皆様が、日々を暮らし、貴重な時間を割いてここに駆けつけてくれた結果、今日のこの素敵な時間があるように。

今日。これから先。

僕らの人生と人生が交わる僅かな時。

目の前のモノへ、惜しまず愛を注ぐこと。

それが過去と今日の、意味を、価値を、決めるのだと思います。

新郎新婦はもちろんのこと、ここに居る僕ら全員も、今日は、思う存分に、話し、笑い、食べ、歌い、踊り?今日のこのメデタイ宴を、胸に刻みましょう。

最後に。

イタリア人である祖母から教わったおまじないを唱え、この祝辞を、4月1日に届いた手紙への返事を、終わりたいと思います。まだ目を閉じてて。

ピッツア♪ マルゲリータ♪ ヴォーノ♪

サクラちゃん、ユータ君、おめでとう。

皆さん、目を開けて、新郎新婦とご家族へ拍手を。

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当日の昼、Musume(4歳11ヶ月)の前で「ピッツア♪ マルゲリータ♪ ヴォーノ♪」の言い方を練習すると、「お客さんは絶対笑う」と太鼓判を押してくれた。それがとても心強かった。

式後。お母様たちや出席されていた方々が、印象に残る良い祝辞でしたと声を掛けてくださる。どこまでがホントウかは分からないけれども嬉しかった。

エイプリルフールに届いた手紙への返事です。という伏線が弱かったのか、100%実話だと信じてしまわれた方も居られたようだけれども、実話かそうでないかなんて、大した問題ではないと、僕も思う。

帰り道。車にあたる雨音を聴きながら少し眠る。ソノ一音一音を憶えてはいないけれども。ソノ日にあった全てを憶えてはいないけれども。幸せでデタラメな記憶の断片。ソレを思うと今なお安らぐ。
Posted by undoandy
Category : 回想
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